砂漠の日差しは容赦なく肌を刺す。もう、熱い、じゃない。溶ける。溶けてしまいそう。砂漠の国、アラバスタの東に位置する港町、タマリスク――その町の時計塔の短針が十一時とっくに過ぎているのを見て、はため息をついた。仲間達は海上でわたしたちを待っているだろう。けれど、足は枯れ木ように灼熱の地面から離れなかった。港の、いや海の方角を見やる。ここで落ち合おう、もし一緒に冒険を続けるのなら―そういう約束で、彼ら、メリー号のメンバーはビビを待っている。来てほしいと願っている。それはわたしもだ。 都からここまで、ビビはこっそり駆けてきた。カルーに乗って。そう、今頃メリー号のすぐ傍までたどり着いたかもしれない―ルフィたちは知らないが、わたしはそれをよく知っていた。だって、ここまでビビを送ってきたのはわたしなのだから。 早く岸に行かなくちゃ。…その前に水を取らなきゃ死んでしまうわ。この暑さ。
 きょろきょろと知らない街を見渡し、適当な路地で水道の蛇口を見つける。作業用って感じの無骨な野外の蛇口だけど、水を被れればなんでいいや!水道を全開にひねれば、水があふれ出す。私達が、この国が勝ち取った命の水。それはこんこんと途切れることなく、乾いた土地を、私の手足に降り注ぐ。両手いっぱいに水を汲んで、頭の上に翳す。十本の指を振り払えば、太陽の日差しを浴びて、水はきらきらと私に降り注いだ。ナミとビビとおそろいの踊り子衣装に、(というかサンジくんに?)この時だけは感謝しようか。露出した肩や首に水が流れ風が吹けば、束の間の清涼感を得られるのだから。
掲げた両手の先に、真っ直ぐこちらに歩いてくる人影。両手で隠れた顔の下、武骨な白いジャケットが光っている。 アラバスタの人じゃない。下ろした両手の先には。整った怖い顔が、煙を吐きながら叫んでいた。
「てめえ、麦わらの…!」
白い煙と頭髪が、ぎらぎらと輝く。葉巻がもくもくと煙を出していて―もくもく?
「…あー!ケムリの人!お久しぶりです」
「スモーカーだ!!…てめえも一味だったな…」
ここで会ったが百年目だ、と十手を構えるケムリの人…いやスモーカーさん。捕まえられるのか私。懸賞金無いけど。それは嫌だ!スモーカーさんとたしぎさんは嫌じゃないけど牢屋は嫌だ!
じりじりと下がる私。どどど、とあふれ出る水を挟んで、十手を構えたスモーカー大佐。じろりと睨んでくる目は、ルフィともめてる時と違って、眉間の皺が無い。…今日は機嫌がいいのかな?逃がしてくれないかな?と思って微笑んでみた。…スモーカーさんは構わずずんずんとこっちに歩いてくる。うわー全然効いてなーい。すぐ眼の前、ずんと佇むスモーカーさん。手を伸ばせば届く距離。私の足元だけ日陰になった。十手は、だらりとその大きな右腕にぶら下がったままだ。がしりと右手が、掴まれる。びくりと震える右手。勝手に高鳴っている心臓が、溶けてしまいそう。海軍と、海賊だから?近くて、遠いから?
私はそれを振り払うように、息をのんで、左手の武器を思いっきり振り下ろした。


「ぶはっ!!何くだらねえ事しやがる…!」
 びしょぬれの葉巻を吐き捨てて能力者は叫んだ。そうびしょぬれの―スモーカーさんが。私が振り下ろした左手は、蛇口を見事に粉砕した。全開にした水がぶわー!とスモーカーさんを包み込んだ一瞬、緩んだ大きな手。私は其れを振りほどいて、近くの建物の屋上に飛び上がった。
海まであと少しだ。高い場所から港を見渡す。食料を詰め込み終わったメリー号が、こっそりと林の向こうに消えていく。見つけた!メリー号に向かって、屋上をつたって飛んで行けばすぐだ。ああ、船についてしまう、もう会えなくなる―ふと胸に湧く気持ち―誰に?
飛び出そうとした私の右足は、空中でぷらんと静止した。びしょ濡れの大きな手が、私の右手を掴んでいる。ゆっくり振り返る。びしょぬれのスモーカーさんが、不機嫌そうにそこに居た。
「逃がすかよ、
息がつまりそうでも嬉しくて、ああ死んでしまいそう!しゅるん、と背後から音がして、ルフィの腕がぐるぐると胴を回って、がっしと私の胴体を握りしめた。「ー!今ひっぱるぞー!」と船長の呼び声。どうやら、船まで引っ張ってくれるみたいだ―正しこの方法、フリーフォールみたいで気持ち悪い。恐る恐る命綱(のゴムの腕)を掴んだ。 ナミとチョッパーが、「早くー!」と叫ぶ声。
「もうバイバイしなくちゃいけないみたい。」
「…っ!待て!!」
大きな腕が、こっちに伸びてくる。ルフィが、ゴムゴムの、と叫んでいる。すべてがゆっくりに見える。刹那の時間が止まる。大きな手が、頬をかする。目の前が、スモーカーさんで一杯になる。私は、ぐんとゴムの手にひっぱられて宙を舞った。どんどん小さくなるスモーカーさん。その両腕が広げられててああまるで――いっそそのまま抱きしめて!





メルト・アンド・ホッパー
(……なんてね!)






恋に恋なんてしないわ/090610Qrn