海賊たちの仕業だ!と、職人達が吠えた。アイスバーグさん襲撃の犯人。今、この水の都・ウォーターセブンはその話で持ち切りだ。海賊にも負けない屈強な船大工たちが取り囲む、ガレーラカンパニー本社へと侵入、そして市長襲撃。果たしてこの島に来たばかりの麦わら海賊団が― 「そうかしら」 私は顎に手をあて考える仕草、を見せる。頭をよぎった考えを、うっかりと漏らさない様に慎重に。こういう時だからこそ、私の頭は冷静だった。 「あァ!?そうに決まってんだろ!!!」 パウリーがいきり立つ。噛みつく様に身を乗り出してくるのでどうどうと押し返す。 「ガレーラの本社に、誰にも気づかれずに進入なんて…?」 できるの、の途中でがしりとパウリーに肩を掴まれた。その腕を放そうにも、馬鹿力過ぎてびくともしない。パウリーが青筋を立てている。その怒りが全身から溢れている。 「ってめえ何が言いたい…!!」 「……!!」 船大工の皆が、しんと静まり返っている。怪我人を運ぶ職人の手が止まっている。一般市民を安全な所へ誘導させようとしている職人達も、固唾を呑んでこちらを窺っている。彼等の前で言えるだろうか?まるで今の状況が内部犯の線もあり得るということを―いいえ言えるものか。皆このウオーターセブンが大好きで、今まさにその為に動いている彼等の前で! 「いや、私のは勘だから…なんでもないよ、ごめんね皆」 ―馬鹿なこと言うんじゃねえ、。パウリーがため息をつく。ついさっきの会話を、燃え上がるガレーラ本社の中で思い出した。火の手が回るのが、いやに早い。私は上着を脱ぎ棄てて階段を駆け上った。下から、「無茶だ!」とか「さんも逃げてください!」という怒号の様な声が飛んでいる。逃げる訳にはいかない。この先に犯人は居ずとも、一番ドッグの職長達が居る。アイスバーグさんの寝室を守っている。下で慌てる大工達に、にかっと笑ってみせる。 「大丈夫!私の上着、よろしくね!」 熱い熱気が、途端に肌を覆った。炎に立ち向かう。熱を耐え抜いて、手摺から高く飛びあがる。本社の吹き抜けの大きな階段を、三階まで、ジャンプを繰り返す。山風のカクに教わった跳躍だ。 入り口で倒れるカクとルッチ―いや彼らの格好をした船大工。 どくん、と心臓が跳ねる。証拠は、十分だった。 どん、と大きな音がして、とっさに私は船大工二人を抱えた。光。耳を押しつぶすような音。爆発。幸い窓から吹っ飛ばされる。新鮮な空気が肺を満たす。空を飛んでいる。いや落ちている。本社の最上階から、落ちている!ぎゃああああ、と声を上げた瞬間、ぐいと何かに引っ張られて、温かい物の中にぽすんと着地―いや、収まった。助かった…。恐る恐る目をあけると、アイスバーグさんが大怪我だが、地面に座って居た。生きている。海賊の女の子と何か話しこんでいる。温かいものが、ゆっくりと大地に下ろしてくれる。私の胴体に巻きつけられたロープが、そこにするりと収まっていった。そのぼろぼろの腕の持ち主は― 「パウリー!」 「このバカ女!!!あの高さから飛ぶなんて死にてえのか!!!!」 怒られた。投身自殺の気なんて毛頭ないよ!爆発に巻き込まれたんだよ!と反論はあるが黙って怒られておこう。どうやらパウリーのロープアクションに助けられた様だから。 パウリーが驚いている。がしりと肩を掴まれた。その視線が下の方へ降りている。私の服装に目が行っているのか。上着は火事場に置いてきたから、タンクトップ一枚だ。海賊の女の子―ナミだっけ、も同じ格好だなあ。あ、またハレンチっていわれ、 「怪我してんじゃねーか…!」 言われなかった。おろおろし始めるパウリー。怒ったり驚いたり慌てたり忙しいなー。 「…っていやいやパウリーやアイスバーグさんの方が大怪我だよ!さっき助けた身代わりにされた人だって―」 この騒ぎの輪の外、遠くで、身代わりにされた船大工が、同僚達に介抱されている。彼らのカツラや帽子や付け鼻は取れている。パッと見にはルッチ達の格好をしているとはわからない。 ルッチとカクとカリファは姿を消した。ルッチとカクの死体のふりをさせられた者がいる。内部犯は、彼等だろう。パウリーが船大工たちを見て、ああ、と頷いた。 アイスバーグさんが、ティラノサウルスを抱いて立ち上がる。話が終わったようだ。私はパウリーにひっぱられて、アイスバーグさん達の元へ行く。けどパウリーは座り込んでしまった。怪我が酷い。 「今夜十一時に政府関係者の移動便で海列車が出航する ンマーおそらくだが…あいつらこれにとる可能性が高い―つまりニコ・ロビンも一緒にだ。 それを最終に海列車は一時運行停止になる。もうすぐアクア・ラグナが来るからな」 言われた海賊の女の子とトナカイ君が、慌てる。 「うそ…大変っ!!今何時!?」 「十時半だ」 「あと三十分!?ねえ何とかならないの!?海列車ちょっと止めてよ!!」 「ンマー目的地エニエス・ロビーってのは政府の人間以外立ち入り禁止の島だ。機関士も政府の人間…おれが言っても聞かねェ」 「そんな…!じゃあ…!!なんとか私が駅に行ってロビンを直接説得するしか…!!」 海賊の女の子が、トナカイ君に、方角を言うから仲間を探して、と頼んでいる。パウリーが、よろりとドックの皆を、オイお前ら、と指差した。皆が無事を喜んでくれる。しかしパウリーは、海賊の女の子達を指差し、言い切った。 「このお譲ちゃん達に 手ェ貸してさしあげろ」 「え!!?手ェ貸すってパウリーさんこいつらアイスバーグさんの命を狙った犯人で…拘束しとくべきですよ!!こっちもルッチさんやカクさんが行方不明で」と職人達が、驚く。どうやら、真犯人を知っているのはごく一部の様だった。パウリーが、そんな職人達を一喝する。 「暗殺犯は”麦わらの一味”じゃねェ!!こいつらは無実だ!!本物の暗殺犯にハメられておれ達が濡れ衣着せちまったんだ!!!」 職人達が息をのむ。ルッチやカクは、との質問を、里帰りだ、とパウリーは切り捨てた。職人達がまだ状況を飲み込めていない。当然だ。あまりに多くの事が、この短時間でひっくり返ってしまった。真実を、実際に見て知ったのはアイスバーグさんとパウリーと海賊達だけだろう。ゴチャゴチャ言ってねえでケジメつけろ!パウリーの、一喝。ガレーラの名を折る気か!と彼が叫べば、職人達、いやガレーラは一体となって、ヤガラを出し始めた。海賊達を、駅へ運ぶために。 アイスバーグさんが、里帰りか、と呟いた。 「もうあんな思いするのは…おれとあなたで…充分でしょ…」 「……」 アイスバーグさんが、じっと黙る。そして私は―パウリーの耳を思いっきりひっぱってやった。ルルやトルスタインや、一番ドックの皆で騒いでいたあの頃のように。 「痛てェ!!耳を離せ!!」 「私もだよ!私だってパウリーと一緒にアイスバーグさんに付いてくんだから!」 「パウリー。は知ってるのか」 「はい。寝室の前で…ルッチとカクのふりをさせられた重傷者二名が…」 ンマー。それで空から飛んできたのか。とアイスバーグさんが頷いた。遠くから、職長ー!ヤガラの準備できましたー!と声が飛んでくる。パウリーは、そちらにおう!と叫んだ―まだ私に耳を引っ張られたまま。それからゆっくりと膝を曲げて、私と同じ顔の高さで見つめてくる。全力で耳を掴んでるのに、それはあっさりと大きな手に解かれた。パウリーの大きな手に、そのままぎゅっと手を握られる。彼が本気を出せば、力では勝てないのだ。いくらガレーラの一員でも、そこには男女の差があった。パウリーもルッチもかくもルルも皆、ずっと遠かった。 「じゃあ、アイスバーグさん…ちょっと行ってきます」 アイスバーグさんが、ああと頷いた。ティラノサウルスも、ちーちーと鳴いて応援した。パウリーの険しい眼は、遠くを見ている。覚悟を決めてた目、だ。パウリーなら、一番ドックの職長なら、何か仕出かすだろう目。例えば、真犯人をぶん殴りに、とか。 「私も一緒に行く。」 「お前は女だろ。これ以上怪我したらどうすんだ。」 「女だけど、ガレーラの一員だよ!」 「じゃあ、ガレーラの名に恥じねえように、アイスバーグさんを守り切れ!」 パウリーが怒鳴る。大きな手が、ぎゅうと力をこめて握ってくる。悔し涙が勝手に流れる。私にはパウリーやルッチやカク、彼等のような力は無い。敵わない。だから― 「…!!パウリーが、私の分も、あいつらぶっ飛ばしてきて…!」 顔を上げる。涙で滲んでいたけれど、パウリーは、にっかと笑っていた。 「おう!」 Reach out to the truth
立ち向かい耐え抜いて さあ顔を上げろ 真実をつかみとれ!/090212Qrn |